東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)188号 判決
事実及び理由
一 原告主張の請求の原因一ないし三の各事実(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び審決の理由の要点)は、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、審決取消事由の有無について検討する。
1 まず、当事者間に争いのない本願考案の要旨によれば、本願考案の衣類は、「股下部及び腿囲り部の全体を」、「腿囲りの太さ方向に対し一〇〇%以上の伸縮を保持するように」、「伸縮性のある布をもつて構成」されていることが明らかである。
ところで、成立について争いのない甲第二号証(本願考案の実用新案公報)の考案の詳細な説明中には「股下部及び腿囲り部の全体を、腿囲りの太さ方向に対して上記伸縮性を示す布をもつて構成することを本質とする。」(第2欄第二七ないし第三〇行)との記載があることが認められ、この記載によれば、本願考案の要旨における前記構成は、股下部及び腿囲り部の全体が伸縮性のある布で構成されていることを意味するようにもみられるが、同号証の他の部分(第2欄第六ないし第八行)には、「股下1及び腿囲り2の一部または全部を腿の太さに対し一〇〇%以上伸縮を保持する様、伸縮性のある布をもつて構成する」との記載があることが認められ、この記載及び本願考案が「用便をする時は一方の内側の腿の部分3に手を掛けて引き伸ばし、しやがみながら尻を出すと衣類を汚さず用が足せる」(同号証第2欄第九ないし第一一行)ことを目的としていることを合わせ考えれば、本願考案における前記構成は、股下部及び腿囲り部が全体として腿囲りの太さ方向に対して一〇〇%の伸縮を保持するように、「股下部及び腿囲り部の全部または一部を伸縮性のある布をもつて構成する」ことを意味するか、少くともそのような構成のものも包含するものとみなければならない。
2 一方、成立について争いのない甲第四号証(第二引用例の実用新案公報)特にその第1図によれば、第二引用例における「伸縮自在の材質よりなる伸縮部2」は、本願考案の衣類における股下部のみでなく、腿囲り部の内側約半分にもわたるものと認められ、したがつて、第二引用例のパンテーにおいても、股下部及び腿囲り部の一部が伸縮性のある材質をもつて構成されているということができる。
3 原告は、本願考案は股下部及び腿囲り部の全体が伸縮性のある布で構成されているのに対し第二引用例のものは本願考案の股下部にあたる部分のみが伸縮性を有するにすぎない旨主張するが、右1及び2に認定したところに照し、採用できない。
また、原告は、本願考案には第二引用例のものにおける弾力性帯にあたるものもゴムテープも存在しないと主張するが、前記甲第二号証には第二引用例における弾力性帯にあたるものについてなんらの記載もなく、同号証における原告指摘(第四の1)の記載も本願考案が必ずしもそのような弾力性帯などを排除するものとは認められないから、この主張もまた失当というべきである。そうすると、審決が本願考案と第二引用例との相違点を看過したとする原告の主張は、その前提を欠き理由がないものといわなければならない。
4 つぎに、原告は、本願考案において股下部及び腿囲り部の伸縮率を一〇〇%以上とした点についての審決の判断の誤りを主張するが、右主張は、いずれも前記1及び2に認定したところに反する事実を前提とするものであるから、採用することができず、右の点に関する審決の判断に誤りはない。
なお、仮に本願考案が股下部及び腿囲り部の全体を伸縮性布で構成することを要件とし、第二引用例のものが本願考案の股下部にあたる部分のみを伸縮性あるものとしているとしても、成立について争いのない甲第三号証によれば、第一引用例には、シヤツ部とパンツ部が一体となつた衣類において、股下部及び腿囲り部の全体を八〇ないし一三〇%の伸び率の伸縮性のある布をもつた構成とする旨の記載があることが認められるので、第二引用例における伸縮部及び腿囲り部の全体を腿囲りの太さ方向に対し一〇〇%以上の伸縮を保持するように伸縮性のある布で構成することは、当業者がきわめて容易にできることというべきである。以上のとおりであるから、本願考案が第一引用例及び第二引用例に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものとした審決には、これを取消すべき違法の点はないとしなければならない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕本願考案に関する事項は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和四七年八月一七日、名称を「伸縮性のあるパンツ部を有する衣類」とする考案(以下「本願考案」という。)につき、実用新案登録出願(実願昭四七―九六二六九号)したが、昭和五四年六月二八日に拒絶査定されたので、これに対し、昭和五四年八月二三日に審判を請求したところ、特許庁は、これを同庁昭和五四年審判第九七四七号事件として審理した上、昭和五六年四月二三日に実公昭五六―一七四四二号として出願公告したが、その後実用新案登録異議の申立があつたので、昭和五七年六月一八日、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決(以下「審決」という。)をし、その謄本は、同年八月一一日原告に送達された。
二 本願考案の要旨
シヤツ部とパンツ部とが一体となつた衣類において、股下部及び腿囲り部の全体を腿囲りの太さ方向に対し一〇〇%以上の伸縮を保持するように伸縮性のある布をもつて構成してなる衣類